LilacFantasy - Ragna Stone_02

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Ragna Stone

「おかしいなぁ…。たしかにこの辺りなんだけど…。」

あたしたちは鬱蒼と茂る森の奥深くにいた。その片手には古ぼけた地図。骨董屋の親父から譲ってもらったものだ。

「ガセなんじゃねぇの?だいたい、何で『誰も入ったことのない洞窟』への地図が存在してるんだよ。」

「う…。」

あたしに対して的確なツッコミを入れたこの人物、相棒のローザ=カルレットである。短い金の髪に紅く凛々しい瞳がとっても男前…な、女戦士(アマゾネス)である。精霊のクセに体力だけは一人前で、魔法よりもハルバードを振り回す方が得意、という例外なヤツ。

「で、でもほら、『誰かが入ったんだけど敵が強すぎて逃げてきちゃいましたーとりあえず地図を描いておこう洞窟』かもしれないじゃない。」

「そんな洞窟、オレらでクリアできると思うか?」

「………」

あたしたち、実は人間界に着いたばかり。学校で散々勉強はしたものの、魔物と戦った経験なんてほとんどない。 強さにはそれなりの自身があるのだけれども。

とりあえず、これ以上反論しても勝てないと思ったあたしは、件の洞窟を目指して森を進んでいった。口先には多少の自信があるあたしだが、何故かローザには全く勝てない。普段口数が少ないクセに、鋭いツッコミをするんだ、コイツは。

森の中は、昼間だというのに薄暗くて、注意しないと簡単に転んでしまいそうな、そんな場所である。近頃は魔物の数も増えたらしく、冒険者はそれなりに近づくが、一般人はほとんど近寄らないとか。

「おい、ウィンディ。」

先を進んでいたローザが、おもむろに遠くを指差している。あたしは急いで彼女に近寄り、指差した方向を凝視する。

「あ…あれよ!あれ!あれだわ!」

目の前に小さく見える洞窟と、手元にあるノスタルジックな地図とを何度も見比べ、何度も確認する。草木に隠れてはいるが、たしかに洞窟である。

「ま、どうせたいした洞窟じゃないとは思うがな。」

「ま、ないよりはいいんじゃないの?」

無事目標物を見つけたあたしたちだったが、まさか本当に、『誰も入ったことのない洞窟』が存在するなんて、二人とも思っていなかったのだ。本気で。

***

「こ…これは…。」

洞窟の目の前まで来て、あたしたちは思わず息を呑んだ。

「何かしら…。魔法障壁が張られているわ…。」

入り口に手をかざすと妙な触感を覚えるのだが、手がすり抜けることから、侵入者を拒んでいるわけではないらしい。

「罠…か?」

「でも、こんな魔法…見たことないわ。」

現在人間界で一般的となっている精霊魔法ではない。かといって、神系でも魔族系でもない…と思う。あまり見たことないから分からないけど。と、いうことは…。

「も、もしかしたら、古代の遺物が眠ってるのかもしれないわよ!」

はるか遠い昔、文明の発達した未知の時代があったらしい。現在は知る人もほとんどいないのだが、以前図書館の重要書簡でちらりと見たことがある。神々が世界を統治していた時代。今とは全く異なった魔法体系を持ち、高度な戦力を備えていたのだとか。

「何があるのかは分からない…けど…。」

あたしがちらっと顔を向けると、横にいる彼女はため息をつく。でも、あたしは知ってる。彼女の返答を。

「一緒に来てくれるわよね?」

「……嫌だって言っても、お前は行くんだよな。」

「分かってんじゃない。」

ちっさい頃からの付き合いなのだ。お互いの性格はよーくわかっている。あたしが無茶な提案をしたときも、いつも付き合ってくれるんだ、コイツは。

「……お前を守るって、こっちに来るとき約束したもんな。」

「ふふ。頼りにしてるわよ、あたしの騎士様。」

そしてついに、あたしたちはお宝の眠る洞窟へと、足を踏み入れた…。

***

「ウィンディシールド!」

二人の周囲に風の結界が張られた。あたしの防御魔法である。

「大丈夫?ローザ。」

ローザはまだ顔をしかめていたが、特に異常はないようだった。

「あぁ…しかし、『誰も入ったことのない洞窟』って、こういうことだったとはな。」

洞窟に入ったとき、あたしたちはすぐに違和感を覚えた。あろうことにか、空気がなかったのだ。空気がなければ精霊といえども呼吸ができず、早ければ数分であの世行きである。風の結界を張ったのは、防御のためではなく、空気を確保するためだったのだ。

「空気がないんじゃ、誰も入って来れないわよね。あたしだって、こんな結界何時までもつか分からないもの。」

「…は?」

「…だから、何時までもつか分からないって。」

「…………」

流れる一瞬の沈黙…。

「出るぞ!こんな洞窟!こんなところで死ねるか!!」

「嫌だってば!絶対何かあるんだから!せっかく見つけたんだから!」

「途中でお前が死んだらオレはどうなる!?」

「だからローザが守ってくれるって言ったじゃない!」

「嫌だ!オレは帰る!」

必死で出口へ戻ろうとするローザと、そんな彼女を必死で抑えるあたし。当然力では勝てないが、そこはあたしの結界の中。そう簡単には逃がさない。

とにかく、こんなやりとりがしばらく続いたのだが、「空気がなければ魔物もいない」というあたしの定説にローザがしぶしぶ納得し、探索は続行することになった。もちろん、罠が仕掛けられている可能性は否めないので、その辺は用心深くチェックしていく。魔物にやられたのであれば、ヒロイックサーガにでもなるのだろうが、罠にやられたのでは…あまりに格好が悪すぎる…。嫌な死因ランキングにはランクインしていると思うぞ…、多分。

***

あれから30分くらい歩いただろうか。特に魔物が出ることも、罠が仕掛けられていることもなく、あっさりと広間に出てしまった。この洞窟の場所を記した人物は、空気を確保することができなかったのだろう。風の精霊でよかったと、生まれて何度か目くらいに思った。

広間は洞窟というよりも神殿のような雰囲気で、中心に向かって長い階段が伸びていた。そして…。

「何だあれ…。」

広間の中心、その頂上に輝いているのは、青く輝くクリスタルだった。サファイヤともアメジストとも違う、綺麗な青紫色だ。大きさは、人一人簡単に入ってしまうくらい。仕組みは分からないが、ふわふわと宙に浮いていた。

あたしたちは罠を警戒しながら、そのクリスタルに近づいていった。風の結界のためにローザと離れるわけには行かなかったので、二人で階段を上っていったのだ。

通常であれば「お宝ゲット!」と素直に喜べるのだろうが、今回はいささか事情が違った。

「こ…これ…。」

「人?」

クリスタルの中に、一人の青年が入っていたのだ。眠っているのだろうか、瞳は閉じられ、意識はないように思われる。

今思うと、あたしはそのとき、何も考えていなかったのだろうか…。あたしの手は、ゆっくりと、クリスタルの方へと伸ばされていった。

「おいウィンディ!」

ローザの声も聞こえなかった。気がつけば、あたしの手はクリスタルに触れていた。

刹那、強烈な青い光があたしの視界を奪う。

台座に書かれた不思議な文字が、光に飲まれていく。

そして…あたしの意識も消えていく…。

しばらくして後…光はようやく治まる。

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